局所麻酔の看護で最初に意識したいのは、「患者さんが起きた状態で手術を受けている」ということです。
患者さんには手術中の会話や機械音が聞こえ、痛み、吐き気、尿意、不安を自分の言葉で訴えることができます。局所麻酔の看護では、モニターの数値だけでなく、表情や体動、声の変化を捉え、安心して手術を受けられるよう支えることが大切です。
- ✓ 局所麻酔の看護で必要な観察項目
- ✓ 意識下で手術を受ける患者さんへの声かけ
- ✓ 局所麻酔薬とエピネフリン添加薬の注意点
- ✓ 酸素投与、セデーション、口頭指示への対応
- ✓ 局所麻酔中毒が疑われたときの初期対応
監修者:伊勢崎 和也
聖マリアンナ医科大学病院 手術・IVRセンター 副師長。手術室看護経験18年。主に整形外科の手術を得意分野としている。局所麻酔を含む周術期看護、スタッフ教育に携わる。
本記事は、新人看護師が局所麻酔の看護を学ぶための一般的な情報です。局所麻酔薬、酸素、鎮静薬、救急薬の使用方法は、患者状態、術式、医師の指示、施設の手順によって異なります。実際の臨床では、添付文書と院内マニュアルを優先してください。
1. 局所麻酔の看護とは?新人看護師が押さえたい基礎知識
1-1. 局所麻酔とは
局所麻酔とは、局所麻酔薬を用いて、手術や処置を行う部位の痛みを一時的に感じにくくする方法です。局所麻酔薬は神経細胞のナトリウムチャネルを遮断し、痛みなどの刺激が神経を通って伝わることを抑えます。患者さんの意識は基本的に保たれ、自分で呼吸し、会話できる状態で手術が進みます。
Becker DE, Reed KL. Essentials of Local Anesthetic Pharmacology.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1693664/
1-2. 局所麻酔と全身麻酔の違い
全身麻酔では、麻酔科医が気道、呼吸、循環、麻酔薬などを管理することが一般的です。一方、局所麻酔では患者さんの意識が保たれるため、外回り看護師がバイタルサインだけでなく、疼痛、不安、悪心、体動、尿意などを直接確認します。施設によっては、モニター、静脈路、酸素、薬剤の準備や管理も看護師の役割となります。
| 比較項目 | 局所麻酔 | 全身麻酔 |
|---|---|---|
| 意識 | 基本的に保たれる | 消失する |
| 呼吸 | 通常は自発呼吸 | 気道・呼吸管理が必要 |
| 患者との会話 | 可能 | 原則できない |
| 看護の重点 | 疼痛、不安、体動、悪心、呼吸・循環 | 体位、安全管理、術野、麻酔科との連携 |
1-3. 局所麻酔の看護で最も重要なのは「患者さんが起きている」こと
局所麻酔中の患者さんには、スタッフの会話、手術器械の音、吸引音などが聞こえています。術野が見えなくても、「今何をされているのだろう」と不安を感じることがあります。表情が硬い、返答が短い、手に力が入るといった変化も見逃さず、必要に応じて状況を説明しながら安心できるよう支えます。
「痛かったら、我慢せず教えてください」「今から少し押される感覚があります」のように、短く具体的に声をかけましょう。局所麻酔では、声かけやタッチングも患者さんの安楽を守る大切な看護です。
1-4. 局所麻酔中は疼痛・悪心・尿意も起こり得る
局所麻酔が不十分な部位へ操作が及ぶと、患者さんが痛みを訴えたり、突然体を動かしたりすることがあります。緊張や薬剤の影響などで悪心・嘔吐が生じる場合もあります。また、短時間手術では膀胱留置カテーテルを挿入しないことが多く、術中に尿意を訴える患者さんもいるため、尿器などで対応できる準備が必要です。
「局所麻酔だから多少は痛い」と決めつけず、痛みの部位、強さ、性質、出現した操作を確認します。そのうえで、局所麻酔薬を追加できないか執刀医へ相談し、患者さんへ今後の対応を説明します。また、局所麻酔は疼痛は感じなくなるものの、触られている感覚は残ることが多々あります。「触られている感覚は残りますよ」と伝えておくことで、患者さんの麻酔が効いていないのではないかという不安を取り除いてあげることも大切です。
1-5. 術野や血液を患者さんから見えないようにする
局所麻酔では患者さんの意識があるため、術野を映すモニター、血液の付着したガーゼ、吸引ボトルなどが視界に入らないよう配慮します。患者さんは見たくなくても、体位によっては偶然見えてしまうことがあります。ドレープや機器の位置を調整し、手術中の安心感を損なわない環境を整えましょう。
2. 局所麻酔の種類と看護の特徴
2-1. 局所浸潤麻酔
局所浸潤麻酔は、手術や処置を行う組織の周囲へ局所麻酔薬を注入し、その範囲の痛みを抑える方法です。皮膚切開、創傷処置、小手術などで使用されます。看護師は、薬剤名、濃度、使用量、エピネフリン添加の有無を確認し、注入後は疼痛の軽減だけでなく、意識、口周囲の違和感、耳鳴り、循環変動なども観察します。
2-2. 表面麻酔
表面麻酔は、皮膚や粘膜の表面へ局所麻酔薬を塗布・噴霧し、表面の知覚を鈍くする方法です。眼科、耳鼻科、内視鏡、気道処置などで使われます。注射を行わないため安全に見えますが、粘膜から吸収されるため、使用量や投与間隔を確認し、局所麻酔中毒の症状にも注意します。
2-3. 伝達麻酔・末梢神経ブロック
伝達麻酔や末梢神経ブロックは、対象部位を支配する神経の近くへ局所麻酔薬を注入し、広い範囲の痛みを抑える方法です。効果範囲が広く、持続時間が長い薬剤も使用されます。看護師は、穿刺時の疼痛やしびれ、投与後の感覚・運動機能、呼吸状態、局所麻酔中毒の徴候を確認します。
脊髄くも膜下麻酔、硬膜外麻酔、末梢神経ブロックは、観察項目や合併症がそれぞれ異なります。本記事では局所麻酔看護の共通点を中心に扱い、各麻酔の詳しい看護はクラスター記事で解説します。
3. 局所麻酔で使用する薬剤と看護の注意点
3-1. リドカインなどの局所麻酔薬
局所麻酔では、リドカインをはじめ、術式や必要な持続時間に応じて複数の薬剤が使われます。同じ薬剤でも濃度や最大投与量が異なるため、商品名だけで判断してはいけません。看護師は、薬剤名、濃度、予定使用量、患者体重、ほかの局所麻酔薬の使用状況を確認し、総投与量を把握できるよう記録します。
3-2. エピネフリン入り局所麻酔薬の特徴
エピネフリンを添加すると、血管が収縮して局所麻酔薬の吸収が遅くなり、麻酔効果が長く続きやすくなります。術野の出血を抑えやすいことも利点です。一方、血管収縮や心拍数・血圧への影響があるため、投与部位、患者の循環状態、薬剤濃度、使用量を確認し、投与後の動悸や循環変動を観察します。
StatPearls. Topical, Local, and Regional Anesthesia and Anesthetics.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK430894/
3-3. エピネフリン入り局所麻酔薬は指や末梢に使えない?
従来は、指趾など終末動脈とされる部位へエピネフリン入り局所麻酔薬を使用すると、虚血や壊死を起こす危険があるため避ける、と教えられてきました。現在も、末梢循環障害、血管損傷、強い感染や挫滅がある患者などでは、使用を避ける判断があります。新人看護師は、部位だけでなく患者の血流状態も確認しましょう。
一方、近年は、循環障害のない成人の指に適切な濃度で使用した場合、重篤な壊死は確認されなかったとする研究もあります。そのため「指には絶対禁忌」と一律に判断せず、薬剤の添付文書、術者の判断、院内手順に従うことが重要です。
「昔は禁忌だったから大丈夫」「最近は使えるから問題ない」と自己判断しないことが大切です。指や足趾へ使用する場合は、術者の指示、薬剤名・濃度、末梢循環、院内ルールを必ず確認してください。
Arp AS, et al. The Anesthetic Effects of Lidocaine with Epinephrine in Digital Nerve Blocks: A Systematic Review. 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37713411/
Cochrane Review. Adrenaline with lidocaine for digital nerve blocks.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7173752/
3-4. 局所麻酔中の口頭指示はメモと5Rで確認する
局所麻酔中は、疼痛、血圧低下、徐脈、悪心、鎮静などに対して、薬剤の口頭指示が出ることがあります。慌ただしい場面ほど、記憶だけで準備してはいけません。口頭指示受けメモへ薬剤名、量、投与経路を記録し、復唱して認識を一致させます。
投与前には5Rとして、正しい患者、正しい薬剤、正しい量、正しい投与経路、正しい時間を確認します。施設でダブルチェックや口頭指示の記録方法が定められている場合は、その手順に従います。
「○○を○mg、静脈注射で投与ですね」と復唱し、アンプルやシリンジの表示を確認します。準備後も、薬剤名と量をもう一度声に出し、可能であればほかのスタッフと確認してから投与しましょう。
WHOは合理的な与薬の基本として、正しい患者、薬剤、量、経路、時間という「5 rights」を示しています。
https://www.emro.who.int/emhj-volume-17/issue-2/article8.html
3-5. 救急カートの薬剤と配置を確認する
局所麻酔では、血圧や心拍数の変動、アレルギー反応、局所麻酔中毒などへ対応する可能性があります。新人のうちから、救急カートに入っている薬剤の作用、一般的な使用場面、希釈方法、保管場所を確認しておきましょう。薬剤名を知っているだけでなく、緊急時に迷わず取り出せることが重要です。
- 救急カートと除細動器の位置
- 酸素投与器具と吸引装置
- 気道確保に必要な物品
- セデーションで使用する薬剤
- 局所麻酔中毒に用いる20%脂肪乳剤
- 麻酔科医や応援スタッフを呼ぶ方法
3-6. 酸素投与はデバイスと流量をセットで確認する
SpO₂低下やセデーション時に酸素投与を行う場合は、鼻カニューレ、シンプルマスク、リザーバー付きマスクなどから、患者状態と指示に合う器具を選びます。酸素は「とりあえず流す」のではなく、使用器具、流量、目標SpO₂をセットで確認し、開始後は呼吸数、意識、胸郭運動、SpO₂の変化を観察します。
| 酸素投与器具 | 一般的な流量の目安 | 看護上の注意 |
|---|---|---|
| 鼻カニューレ | 成人では低流量で使用し、資料により概ね1〜4L/分程度 | 鼻腔乾燥、ずれ、口呼吸、耳介部の圧迫を確認 |
| シンプルマスク | 通常5L/分未満を避け、5〜10L/分程度 | 低流量では呼気CO₂を再呼吸する危険がある |
| リザーバー付きマスク | 高流量で使用し、バッグがしぼまないよう調整 | 重度低酸素時に使用し、速やかに医師へ報告 |
酸素流量の範囲は、使用する製品、患者の呼吸状態、基礎疾患によって異なります。特にCOPDなど高二酸化炭素血症のリスクがある患者では、過剰な酸素投与を避ける必要があります。医師の指示、目標SpO₂、製品説明書、院内手順に従ってください。
Queensland Health. Primary Clinical Care Manual:酸素投与器具と流量の目安。
https://www.health.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0018/1215027/3.Emergency.pdf
Sherwood Forest Hospitals NHS. Oxygen Policy:シンプルマスクではCO₂再呼吸を防ぐため5L/分以上を基本とする。
https://www.sfh-tr.nhs.uk/media/2pzlogfa/oxygen-policy-prescription-administration-and-monitoring-of-oxygen-therapy-in-adults.pdf
※次のPartでは、「局所麻酔の術前看護」「術中の観察項目」「患者さんへの声かけ」「外回り看護師と器械出し看護師の役割」を解説します。
4. 局所麻酔の術前看護
4-1. 局所麻酔前に患者情報とリスクを確認する
局所麻酔の術前看護では、患者氏名、術式、手術部位、左右、アレルギー歴、局所麻酔薬の使用歴を確認します。心疾患、呼吸器疾患、肝・腎機能障害、てんかん、末梢循環障害などは、薬剤選択や術中管理へ影響する可能性があります。普段の血圧や脈拍も把握し、術中変化を判断する基準にしましょう。
- □ 患者氏名、術式、部位、左右を確認した
- □ 局所麻酔薬・薬剤アレルギー歴を確認した
- □ 心疾患、呼吸器疾患、てんかんなどの既往を確認した
- □ 末梢循環障害や血管疾患の有無を確認した
- □ 術前の血圧、脈拍、SpO₂、意識状態を把握した
4-2. 静脈路・モニター・酸素投与器具を準備する
局所麻酔は全身麻酔より侵襲が小さく見えても、血圧低下、徐脈、アレルギー反応、局所麻酔中毒などが起こる可能性があります。施設手順に沿って静脈路を確保し、心電図、血圧計、SpO₂モニターを装着します。鼻カニューレや酸素マスク、吸引装置がすぐ使える状態かも確認します。
「必要になったら準備する」では遅いことがあります。酸素、吸引、救急カート、脂肪乳剤、応援要請の方法は、患者さんが入室する前に一度確認しておきましょう。
4-3. 局所麻酔中に起こることを患者さんへ説明する
患者さんには、手術中も意識があり、スタッフの会話や器械音が聞こえることを伝えます。また、押される感覚や引っ張られる感覚は残る場合があるものの、痛みがあれば我慢せず伝えてよいことも説明します。尿意、吐き気、息苦しさ、寒さなども遠慮せず知らせてもらえるよう声をかけましょう。
「手術中もお話はできます」「押される感じはあるかもしれませんが、痛いときはすぐ教えてください」「トイレに行きたくなったときや気分が悪いときも、遠慮なく声をかけてください」と伝えます。
4-4. 排尿状況と手術時間を確認する
局所麻酔手術では膀胱留置カテーテルを挿入しないことが多いため、入室前の最終排尿時刻を確認します。高齢者、前立腺疾患、利尿薬使用中の患者では、短時間でも尿意が強くなる場合があります。手術時間や体位を踏まえ、必要であれば入室前に排尿を勧め、尿器を準備しておきます。
4-5. セデーションの予定と院内ルールを確認する
局所麻酔に鎮静を併用する可能性がある場合は、使用予定薬、投与者、必要なモニター、麻酔科医の関与を確認します。鎮静薬は意識低下や呼吸抑制を起こすため、看護師が独自に投与してよいものではありません。誰が指示し、誰が投与し、異常時に誰を呼ぶかを事前に整理します。
鎮静が始まると、患者さんは自分で異常を訴えにくくなります。呼吸数、意識レベル、SpO₂、気道の開通性をより厳密に観察し、必要に応じて麻酔科医の応援を要請します。
5. 局所麻酔の術中看護と観察項目
5-1. 血圧の変動を観察する
局所麻酔中は、疼痛や不安によって血圧が上昇する一方、迷走神経反射、薬剤、出血、鎮静などで血圧が低下することもあります。単回の数値だけでなく、術前値からの変化と推移を確認します。血圧変動に加えて、顔色、冷汗、気分不快、意識状態も観察し、原因を考えながら報告します。
5-2. 心拍数と心電図を観察する
心拍数の増加は、疼痛、不安、エピネフリンの影響などで起こります。徐脈は迷走神経反射や薬剤の影響、循環不全などで生じる可能性があります。脈拍数だけでなく、心電図波形、不整脈、血圧、意識状態を併せて確認し、急激な変化や症状を伴う場合は速やかに術者へ報告します。
5-3. SpO₂と呼吸状態を観察する
SpO₂が保たれていても、呼吸数の低下や浅い呼吸が先に起こることがあります。特に鎮静薬や鎮痛薬を使用した場合は、SpO₂、呼吸数、胸郭運動、意識レベル、いびき様呼吸を観察します。酸素投与中は低酸素が数値へ現れにくいこともあるため、患者さんの呼吸そのものを見ることが重要です。
SpO₂が98%でも、呼吸数が低下し、呼びかけへの反応が弱くなっていれば注意が必要です。モニターと患者さんを交互に見る習慣をつけましょう。術中に眠ってしまう患者さんやマスクをしている患者さんはSpO₂が下がることが多々あります。状況に応じて、「深呼吸をしてください」と伝えたり、マスクを外したりして対応しましょう。
5-4. 疼痛と局所麻酔の効果を確認する
局所麻酔の効果は、手術部位や操作によって均一ではありません。表情のこわばり、眉間のしわ、握り込み、体動、血圧上昇なども疼痛のサインです。痛みの訴えがあれば、部位、強さ、性質、どの操作で出現したかを確認し、局所麻酔薬を追加できないか執刀医へ相談します。
「患者さんが切開部の奥に強い痛みを訴えています。血圧も上昇しています。局所麻酔の追加は可能でしょうか」と、症状と客観的変化を合わせて伝えます。
5-5. 悪心・嘔吐と気分不快を観察する
悪心は、不安、疼痛、血圧低下、薬剤、体位などさまざまな要因で起こります。患者さんの返答が少なくなる、唾液を何度も飲み込む、顔色が悪い、冷汗があるといった変化にも注意します。吐き気を訴えたら、顔を横へ向けられるか確認し、吸引を準備して誤嚥を防ぎます。
5-6. 意識レベルと会話の変化を観察する
局所麻酔中は会話ができるため、返答の内容や速さが重要な観察になります。急に返事が遅くなる、ろれつが回らない、眠気が強い、落ち着きがなくなるといった変化は、鎮静薬、低酸素、循環変動、局所麻酔中毒などの初期徴候かもしれません。普段との違いを早めに捉えましょう。
5-7. 体動と手術部位の安全を確認する
痛み、不安、尿意、しびれ、長時間同じ姿勢でいるつらさから、患者さんが突然動くことがあります。体動は術野汚染や器械による損傷につながる可能性があります。動く前に声をかけてもらうよう説明し、訴えの原因を確認してから、術者と相談して安全に対応します。
| 局所麻酔の観察項目 | 観察する内容 | 考えられる変化 |
|---|---|---|
| 血圧 | 術前値との差、上昇・低下の推移 | 疼痛、不安、出血、迷走神経反射 |
| 心拍・心電図 | 頻脈、徐脈、不整脈 | 疼痛、薬剤、循環変動 |
| 呼吸・SpO₂ | 呼吸数、深さ、胸郭運動、いびき | 鎮静、気道閉塞、低酸素 |
| 疼痛 | 部位、強さ、性質、出現時期 | 麻酔効果不足、操作範囲の拡大 |
| 意識・会話 | 返答、ろれつ、眠気、落ち着き | 鎮静、低酸素、局所麻酔中毒 |
| その他 | 悪心、冷汗、尿意、体動 | 不安、血圧低下、体位不快 |
6. 局所麻酔中の外回り看護師・器械出し看護師の役割
6-1. 局所麻酔では外回り看護師の業務が増えやすい
全身麻酔では麻酔科医が全身管理を担いますが、局所麻酔では外回り看護師が、患者対応、モニター、静脈路、酸素、薬剤準備、記録、術野外物品の供給を同時に担うことがあります。患者さんからの訴えにも対応するため、外回り看護師の業務は相対的に多くなりやすいと理解しておきましょう。
6-2. 外回り看護師は患者の変化を相対的に評価する
外回り看護師は、血圧やSpO₂を単独で見るのではなく、術前状態や直前の数値と比較して評価します。患者さんの表情、返答、体動、疼痛、術者の操作も合わせて確認すると、変化の原因を考えやすくなります。異常時は「数値」と「患者の症状」をセットで簡潔に報告します。
「血圧が術前140mmHgから90mmHgまで低下しています。脈拍は50回/分で、冷汗と気分不快があります」のように、基準値、現在値、症状をまとめて伝えます。
6-3. 器械出し看護師は外回り看護師の負担を減らす
器械出し看護師は、術式と手術進行を予測し、使う可能性のある器械や材料を事前に準備します。清潔野へ出せる物品を十分に出しておけば、外回り看護師を呼ぶ回数を減らせます。患者対応やバイタル管理が集中しているときは、急がない依頼を避けるなど、外回りの状況を見ることも大切です。
- 使用する可能性のある器械を先に確認する
- 追加で使いそうな材料を準備しておく
- 清潔野へ出せる物品を不足なく出しておく
- 術者の次の操作を予測する
- 外回り看護師が患者対応中か確認してから依頼する
6-4. 器械出し看護師も患者さんの声を聞く
器械出し看護師は術野へ集中していますが、患者さんの痛みや気分不快の訴えが聞こえた場合は、外回り看護師や術者へ共有します。局所麻酔では、器械出しと外回りの両方が患者さんの存在を意識することが重要です。チーム全体で訴えを拾うことで、対応の遅れを防げます。
6-5. 口頭指示と薬剤投与はチームで確認する
外回り看護師が患者観察と物品対応を同時に行っていると、口頭指示の聞き間違いや記録漏れが起こりやすくなります。薬剤指示は必ずメモし、復唱し、5Rで確認します。器械出し看護師も、術者が薬剤名や追加麻酔を指示した場合は、外回り看護師が認識したか確認しましょう。
患者さんの状態が変化している場面では、焦って確認手順を飛ばしやすくなります。緊急時ほど、薬剤名、量、経路を短く復唱し、誰が投与するのかを明確にしてください。
※次のPartでは、「局所麻酔中毒(LAST)の初期症状と対応」「脂肪乳剤の準備」「セデーション時の看護」「局所麻酔後の観察と転倒予防」を解説します。
7. 局所麻酔中毒(LAST)の症状と看護
7-1. 局所麻酔中毒(LAST)とは
局所麻酔中毒(Local Anesthetic Systemic Toxicity:LAST)とは、局所麻酔薬の血中濃度が高くなり、中枢神経や心血管系へ有害な影響が生じる状態です。血管内への誤注入、過量投与、吸収の速い部位への投与などで起こる可能性があり、局所麻酔を使用する場では常に備えが必要です。
American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine(ASRA). Checklist for Treatment of Local Anesthetic Systemic Toxicity.
https://asra.com/news-publications/asra-updates/blog-landing/guidelines/2020/11/01/checklist-for-treatment-of-local-anesthetic-systemic-toxicity
7-2. 局所麻酔中毒の初期症状
局所麻酔中毒の初期には、口唇周囲のしびれ、金属のような味、耳鳴り、めまい、視覚異常、不穏、ろれつが回らないなどの神経症状が現れることがあります。患者さんが「何となく変」「耳が響く」と訴える場合もあるため、局所麻酔薬投与後の小さな変化を軽視しないことが重要です。
局所麻酔中毒は、必ず教科書どおりの順番で進むとは限りません。前駆症状が乏しいまま、けいれん、不整脈、循環虚脱が現れることもあります。違和感があれば、投与時刻と総使用量を確認し、早めに術者へ報告しましょう。
OpenAnesthesia. Local Anesthetic Systemic Toxicity.
https://www.openanesthesia.org/keywords/local-anesthetic-systemic-toxicity/
7-3. 重症化するとけいれん・不整脈・心停止を起こす
局所麻酔中毒が進行すると、全身けいれん、意識消失、呼吸停止、不整脈、著しい血圧低下、心停止などを起こす可能性があります。局所麻酔薬投与後に患者さんの反応が急変した場合は、LASTを鑑別に挙げ、投与を中止できるよう術者へ伝え、直ちに応援を要請します。
7-4. 局所麻酔中毒を疑ったときの看護
LASTを疑ったら、局所麻酔薬の投与中止を術者へ伝え、院内の緊急コールで応援を呼びます。気道を確保し、高濃度酸素の準備、換気補助、心電図・血圧・SpO₂の継続観察を行います。けいれんや循環虚脱に備え、救急カート、除細動器、脂肪乳剤を直ちに準備します。
- 局所麻酔薬の投与中止を伝える
- 応援・麻酔科医を要請する
- 気道・呼吸・循環を評価する
- 酸素、吸引、換気器具を準備する
- 救急カートと除細動器を準備する
- 20%脂肪乳剤と院内手順書を用意する
LASTの蘇生では、薬剤選択やアドレナリンの使用方法などに、通常の心停止対応と異なる点があります。看護師が自己判断で投与量を決めず、ASRAなどのチェックリストと院内手順を確認し、医師の指示に従ってください。
7-5. 20%脂肪乳剤の保管場所を把握する
重症の局所麻酔中毒では、20%脂肪乳剤を使用することがあります。緊急時に保管場所を探している余裕はないため、局所麻酔を多く使用する手術室では、製品名、保管場所、必要物品、院内手順を事前に確認しておきます。使用量は患者体重や状態により決まるため、医師の指示で準備します。
「イントラリポスという名前は知っている」だけでは不十分です。実際にどの棚や救急カートにあるのか、点滴セットはどれを使うのか、手順書をどこで開くのかまで確認しておきましょう。
Resuscitation Council UK. Special Circumstances Guidelines 2025:局所麻酔中毒では20%脂肪乳剤を用いる蘇生手順を提示。
https://www.resus.org.uk/professional-library/2025-resuscitation-guidelines/special-circumstances-guidelines
7-6. 局所麻酔薬の総使用量をチームで共有する
局所麻酔薬を追加するたびに、薬剤名、濃度、使用量、投与時刻を記録します。複数回に分けて使用すると、総量が分かりにくくなるため、「今までに合計何mL使用したか」を術者と共有しましょう。複数種類の局所麻酔薬を併用する場合も、別々に安全と考えず総合的な評価が必要です。
8. 局所麻酔にセデーションを併用するときの看護
8-1. セデーションとは
セデーションとは、鎮静薬などを使用し、不安や緊張を和らげ、眠気のある状態にすることです。局所麻酔に併用すると患者さんの苦痛を軽減できますが、鎮静が深くなると気道閉塞、呼吸抑制、血圧低下が起こる可能性があります。局所麻酔のみの手術より厳密な全身観察が必要です。
8-2. 鎮静の深さは変化する可能性がある
軽い鎮静を予定していても、患者の年齢、体格、肝腎機能、併用薬によって予想以上に深くなることがあります。呼びかけへの反応が弱い、舌根沈下によるいびきが出る、呼吸数が減るなどの変化を観察します。鎮静を担当するスタッフは、深い鎮静へ移行した患者を救援できる体制が必要です。
American Society of Anesthesiologists(ASA). Statement on Continuum of Depth of Sedation.
https://www.asahq.org/standards-and-practice-parameters/statement-on-continuum-of-depth-of-sedation-definition-of-general-anesthesia-and-levels-of-sedation-analgesia
8-3. セデーション前に薬剤と役割分担を確認する
セデーションを行う場合は、使用する薬剤、投与者、投与方法、拮抗薬、必要なモニターを確認します。薬剤がどこに保管されているか、看護師が投与できる範囲、麻酔科医を呼ぶ基準も施設ごとに異なります。曖昧な状態で開始せず、術者と役割分担を共有しておきましょう。
- 誰が薬剤を指示・投与するか
- 誰が患者観察を担当するか
- 使用薬剤と拮抗薬の保管場所
- 酸素・吸引・バッグバルブマスクの準備
- 麻酔科医・応援を呼ぶ基準
- 術後の観察場所と帰室基準
8-4. 呼吸数・気道・意識レベルを優先して観察する
鎮静中は、SpO₂だけでなく呼吸数、呼吸の深さ、胸郭運動、いびき、呼びかけへの反応を観察します。酸素投与中はSpO₂低下が遅れて現れることがあるため、数値が正常でも安心できません。舌根沈下や呼吸抑制が疑われたら、刺激、体位調整、気道確保を行い、直ちに報告します。
8-5. セデーション中の酸素投与
軽い酸素補助では鼻カニューレが使われることがありますが、低酸素が進行した場合はマスクなど、より高い酸素濃度を供給できる器具へ変更します。器具と流量を医師の指示に沿って選び、装着後はSpO₂だけでなく呼吸状態を再評価します。改善しない場合は早期に応援を要請します。
8-6. セデーション中の薬剤指示も5Rで確認する
鎮静薬、鎮痛薬、昇圧薬、制吐薬などの追加指示は、必ず口頭指示受けメモへ記録し、薬剤名・量・経路を復唱します。投与前には患者、薬剤、量、経路、時間の5Rを確認します。似た外観のアンプルや濃度違いもあるため、急いでいてもラベル確認を省略しないことが大切です。
9. 局所麻酔後の看護と観察項目
9-1. 術後もバイタルサインと意識を確認する
局所麻酔だけで手術が終了しても、すぐに観察を終えてよいわけではありません。血圧、脈拍、SpO₂、呼吸、意識レベルを確認し、術前状態へ戻っているか評価します。局所麻酔薬や鎮静薬の影響が遅れて現れることもあるため、投与薬剤と最終投与時刻を確認して申し送ります。
9-2. 疼痛と麻酔効果の残存を確認する
手術終了後は、創部痛の程度と局所麻酔の効果がどの程度残っているかを確認します。麻酔が切れると疼痛が増える可能性があるため、鎮痛薬の指示と使用方法を共有します。感覚低下が残っている部位は熱傷や圧迫損傷を受けやすいため、患者さんにも触れ方や保護方法を説明します。
9-3. 吐き気・ふらつき・眠気を確認する
術後は、悪心、嘔吐、めまい、ふらつき、眠気がないか確認します。局所麻酔のみでも、緊張、疼痛、絶食、体位変換などで気分不快が生じることがあります。セデーションを併用した場合は、本人が「大丈夫」と話していても、注意力や平衡感覚が十分に回復していない可能性があります。
9-4. 転倒・転落を予防する
初回離床では、急に立たせず、まず座位で血圧、ふらつき、気分不快を確認します。必要に応じて看護師が付き添い、歩行やトイレ移動を介助します。下肢の感覚低下や運動障害が残っている場合は、自力歩行を避け、麻酔効果が回復するまで安全な体位で待機します。
「麻酔やお薬の影響でふらつくことがあります。最初に立つときやトイレへ行くときは、一人で動かず必ず看護師を呼んでください」と具体的に伝えます。
9-5. 創部・出血・末梢循環を確認する
創部の出血、腫脹、ドレッシング材の汚染を確認します。エピネフリン入り局所麻酔薬を使用した部位や、指・足趾など末梢部位では、皮膚色、温度、毛細血管再充満、しびれ、強い疼痛も観察します。術前と比較して循環が悪い場合は、速やかに医師へ報告します。
9-6. 病棟・外来へ投与薬剤と未評価項目を申し送る
申し送りでは、局所麻酔薬の種類・濃度・総使用量、エピネフリン添加の有無、鎮静薬や救急薬の使用、最終投与時刻を伝えます。疼痛、感覚・運動機能、悪心、ふらつき、末梢循環の状態も共有し、まだ確認できていない項目があれば、再評価が必要であることを明確に伝えます。
「リドカインを合計○mL使用し、鎮静薬を○時○分に投与しています。現在は呼名で開眼し、SpO₂は○%です。ふらつきが残っているため、初回歩行時は付き添いをお願いします」と具体的に共有します。
※次のPartでは、「新人看護師が局所麻酔の看護で失敗しやすいポイント」「大学病院手術室副師長が大切にしていること」「よくある質問」「まとめ・参考文献」を掲載します。
10. 新人看護師が局所麻酔の看護で失敗しやすいポイント
10-1. 「局所麻酔だから安全」と思い込む
局所麻酔は全身麻酔より身体への負担が小さい場合がありますが、局所麻酔中毒、アレルギー反応、血圧低下、徐脈、呼吸抑制などが起こる可能性があります。「患者さんは起きているから大丈夫」と考えず、静脈路、モニター、酸素、吸引、救急カートを準備し、急変に備えることが重要です。
10-2. モニターの数値だけを見てしまう
局所麻酔の看護では、血圧やSpO₂だけでなく、表情、返答、呼吸、冷汗、体動などを観察します。鎮静や酸素投与中は、SpO₂が保たれていても呼吸が浅くなっている場合があります。モニター画面に集中しすぎず、数値と患者さんの様子を交互に確認する習慣をつけましょう。
10-3. 患者さんの痛みを我慢させてしまう
患者さんが痛みを訴えたときに、「もう少しなので我慢してください」と安易に伝えるのは避けます。痛みの部位、強さ、性質、出現した操作を確認し、局所麻酔を追加できないか執刀医へ相談します。対応の見通しを説明し、声かけやタッチングで不安を軽減することも大切です。
10-4. 手術室内の会話へ配慮できていない
局所麻酔中の患者さんには、スタッフの会話が聞こえています。手術の難しさや出血に関する不用意な発言、私語、笑い声は、不安を強める原因になります。必要な情報は簡潔に共有し、患者さんの前で話す内容や声の大きさに配慮しましょう。
スタッフにとって日常的な会話でも、患者さんには重大な出来事のように聞こえることがあります。局所麻酔中は、チーム全体が患者さんの不安に配慮する必要があります。
10-5. 尿意や体位のつらさを軽視する
尿意や同じ体位によるつらさは、患者さんにとって大きな苦痛です。我慢が限界になると突然動き、術野汚染や事故につながる可能性があります。尿器の使用、除圧、体位の微調整が可能かを術者へ相談し、患者さんへ動く前に声をかけてもらうよう伝えます。
10-6. 口頭指示を記憶だけで処理する
局所麻酔中は、追加麻酔、鎮静薬、制吐薬、循環作動薬などの指示が口頭で出ることがあります。記憶だけで準備すると、薬剤名や投与量を取り違える危険があります。口頭指示受けメモへ記録し、復唱したうえで、投与前に5Rを確認してください。
10-7. 酸素器具と流量の組み合わせを確認しない
酸素投与では、鼻カニューレ、シンプルマスク、リザーバー付きマスクで適切な流量が異なります。特にシンプルマスクを低すぎる流量で使用すると、呼気の二酸化炭素を再呼吸する可能性があります。医師の指示、目標SpO₂、製品説明書を確認し、器具と流量をセットで管理しましょう。
10-8. 救急薬や脂肪乳剤の場所を知らない
緊急事態が起きてから救急薬や脂肪乳剤を探すと、対応が遅れます。局所麻酔手術へ入る前に、救急カート、除細動器、酸素、吸引、20%脂肪乳剤の場所を確認します。収納場所だけでなく、どの薬剤が何に使用されるのか、院内手順を含めて学んでおきましょう。
11. 局所麻酔の看護で大学病院手術室副師長が大切にしていること
11-1. 患者さんが見聞きするものまで看護する
局所麻酔の看護では、バイタルサインだけでなく、患者さんが手術室で何を見て、何を聞くかまで考えます。術野モニターや血液の付着した物品が見えないようにし、スタッフの会話や機械音への不安にも配慮します。患者さんの立場で手術室内を見渡すことが大切です。
11-2. 数値の変化を患者さんの訴えと結びつける
血圧上昇を見たら、疼痛や不安がないか確認します。SpO₂低下を見たら、呼吸数、体位、鎮静の深さを確認します。数値を正常範囲へ戻すことだけを目的にせず、「なぜ変化したのか」を患者さんの表情や訴え、手術操作と結びつけて考えましょう。
11-3. 異常が起こる前に必要物品を準備する
患者状態が悪化してから酸素や救急カートを準備するのではなく、リスクを予測して事前に確認します。局所麻酔薬を多量に使用する症例、鎮静を併用する症例、高齢者や呼吸器疾患のある患者では、必要となる器具や応援体制を手術開始前に整えます。
11-4. 外回り看護師だけに負担を集中させない
局所麻酔では、外回り看護師が患者観察、薬剤、記録、物品供給を同時に担うことがあります。器械出し看護師は、使用しそうな器械や材料を事前に準備し、外回りへの依頼を減らします。器械出しと外回りが互いの状況を見ながら動くことで、患者観察へ十分な時間を確保できます。
局所麻酔では、患者さんと会話できることが大きな情報源になります。「何かあれば言ってください」で終わらず、こちらから定期的に声をかけ、言葉にしにくい苦痛を拾うことを意識しましょう。
12. 局所麻酔の看護でよくある質問
12-1. 局所麻酔の看護で必要な観察項目は?
血圧、心拍数、心電図、SpO₂、呼吸数、意識レベル、疼痛、悪心、体動、尿意などを観察します。局所麻酔薬投与後は、口周囲のしびれ、耳鳴り、金属味、不穏、けいれん、不整脈など、局所麻酔中毒の症状にも注意します。
12-2. 局所麻酔中に患者さんへ何と声をかけますか?
「痛みはありませんか」「吐き気や息苦しさはありませんか」「トイレに行きたいときは教えてください」など、具体的に確認します。手術の進行に合わせて、「少し押される感じがあります」「あと少しで終わります」と伝えると、不安の軽減につながります。
12-3. 局所麻酔は何時間効きますか?
効果時間は、使用する局所麻酔薬、濃度、投与量、投与部位、エピネフリン添加の有無によって異なります。具体的な時間を一律に示すことはできません。術後は、麻酔効果が残っている部位を保護し、感覚が戻る前の熱傷や外傷を予防します。
12-4. 局所麻酔でも眠ることはありますか?
局所麻酔だけでは基本的に意識は保たれますが、不安や苦痛を軽減するために鎮静薬を併用することがあります。鎮静の深さによっては眠ったような状態になります。呼吸抑制や気道閉塞の危険があるため、呼吸数、意識、SpO₂を継続して観察します。
12-5. 局所麻酔中毒の初期症状は?
口周囲のしびれ、金属味、耳鳴り、めまい、視覚異常、不穏、ろれつが回らないなどがあります。ただし、初期症状が明確でないまま、けいれんや不整脈が起こることもあります。局所麻酔薬投与後の急な変化は、LASTを疑って対応します。
12-6. エピネフリン入り局所麻酔薬は指に使えますか?
従来は指や足趾への使用を避けるとされてきましたが、近年は循環障害のない成人へ適切な濃度で使用した場合の安全性を支持する報告があります。ただし、末梢循環障害、血管損傷、強い感染などがある患者では慎重な判断が必要です。添付文書、医師の指示、院内手順を優先します。
Arp AS, et al. The Anesthetic Effects of Lidocaine with Epinephrine in Digital Nerve Blocks: A Systematic Review. 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37713411/
12-7. 鼻カニューレと酸素マスクはどう使い分けますか?
軽度の酸素補助では鼻カニューレ、より高い酸素濃度が必要な場合はマスクが選択されます。シンプルマスクは一般に5L/分未満を避け、二酸化炭素の再呼吸を防ぎます。患者状態、目標SpO₂、医師の指示、使用製品の説明書に従って選択してください。
12-8. 局所麻酔後に一人で歩いてもよいですか?
局所麻酔や鎮静薬の影響で、ふらつき、眠気、下肢の感覚低下が残る場合があります。初回離床では座位で状態を確認し、必要に応じて看護師が付き添います。患者さんが自覚上問題ないと話していても、転倒リスクを評価してから歩行を開始します。
13. まとめ|局所麻酔の看護では意識下の患者さんを全身から観察する
局所麻酔の看護で最も大切なのは、患者さんが意識のある状態で手術を受けていると理解することです。モニターの数値だけでなく、疼痛、悪心、体動、尿意、不安、会話の変化を観察し、声かけやタッチングで安楽を支えます。
外回り看護師は、患者観察、モニター、酸素、薬剤、記録を同時に担当することがあります。器械出し看護師は、必要な器械や材料を事前に準備し、外回りの負担を減らします。局所麻酔の看護は、チーム全体で患者さんを守ることが重要です。
また、局所麻酔中毒、鎮静による呼吸抑制、薬剤の口頭指示など、緊急性の高い場面にも備えます。救急カート、酸素、吸引、脂肪乳剤の場所を確認し、薬剤投与では口頭指示受けメモと5Rを活用して、与薬ミスを予防しましょう。
- 局所麻酔では患者さんの意識が保たれる
- 疼痛・悪心・体動・尿意・不安を観察する
- 血圧、心拍数、SpO₂、呼吸、意識を継続して確認する
- 酸素は器具と適切な流量をセットで管理する
- 口頭指示はメモ・復唱・5Rで確認する
- 局所麻酔中毒に備えて脂肪乳剤の場所を把握する
- 器械出し看護師も外回り看護師を支援する
- 術後はふらつきや感覚低下による転倒を予防する
本記事は、局所麻酔の看護に関する一般的な学習情報を提供するものであり、個別患者への医療行為や薬剤投与を指示するものではありません。実際の臨床では、薬剤の添付文書、使用機器の説明書、所属施設の手順書、医師の指示を優先してください。
参考文献・出典
- Becker DE, Reed KL. Essentials of Local Anesthetic Pharmacology.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1693664/ - American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicine. Checklist for Treatment of Local Anesthetic Systemic Toxicity.
https://asra.com/news-publications/asra-updates/blog-landing/guidelines/2020/11/01/checklist-for-treatment-of-local-anesthetic-systemic-toxicity - American Society of Anesthesiologists. Statement on Continuum of Depth of Sedation.
https://www.asahq.org/standards-and-practice-parameters/statement-on-continuum-of-depth-of-sedation-definition-of-general-anesthesia-and-levels-of-sedation-analgesia - Arp AS, et al. The Anesthetic Effects of Lidocaine with Epinephrine in Digital Nerve Blocks: A Systematic Review. 2023.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37713411/ - Cochrane Review. Adrenaline with lidocaine for digital nerve blocks.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7173752/ - Queensland Health. Primary Clinical Care Manual:酸素投与器具と流量の目安。
https://www.health.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0018/1215027/3.Emergency.pdf - Resuscitation Council UK. Special Circumstances Guidelines 2025.
https://www.resus.org.uk/professional-library/2025-resuscitation-guidelines/special-circumstances-guidelines
監修者:伊勢崎 和也
所属:聖マリアンナ医科大学病院 手術・IVRセンター 副師長。
執筆日:【2026年8月5日】
最終更新日:【2026年8月5日】
監修日:【2026年8月5日】